地の利をいかしたキャリア教育を取り入れ、主体的に学ぶ「名古屋市立東桜小学校」の子どもたち
かつて名古屋城の城下町として栄えたエリアが学区となる「名古屋市立東桜小学校」は、名古屋の繁華街とされる栄や開放的な空間でくつろげる「Hisaya-odori Park(久屋大通公園)」などに近く、歴史文化、商業、自然といった多彩な環境の中にある小学校です。同校の児童はキャリア教育としてさまざまな職業の方から話を聞いたり、地域の方と触れ合ったりするほか、学習の中でPDCAサイクルを回すなど、目的をもって学ぶ姿がみられます。具体的に子どもたちがどのような環境の中で学んでいるのか、校長の橋本新先生にお話を聞きました。
自然な流れで取り組まれているPDCAサイクルやキャリア教育が魅力の東桜小学校
――「東桜小学校」の目指す子ども像と目指す学校像について教えてください。
橋本校長:本校は目的意識をもって自己選択する「主体的に学ぶ東桜っ子」を目指す子ども像に、「いつもあいさつの響き合う、笑顔あふれる学校」、「一人一人の子どもの良さを見付け、伸ばせる学校」、「教職員、保護者、地域がともに協力し合い、教育の質を高めていく学校」を目指す学校像としています。また、笑顔(Smile)、ありがとう(Thank you)、ごめんなさい(Excuse me)、どうぞ・感謝の気持ち(Please)の頭文字をとった合言葉「東桜STEP」が子どもたちに定着しています。
――学習の中に取り入れているPDCAサイクルについて教えてください。
橋本校長:本校では“学習した結果をチェックして次につなげる学習”に取り組んでいて、子どもたちは学習の終わりに振り返りをし、その振り返りの中で次の目的を焦点化させています。こんなことを学びたい、こんなことがやりたいという目的に向かうためにはどのような手法を取れば良いのか、例えば1人で取り組むのか、仲間と作りあげていくのかなど、学びの形を選択するんです。実際に「PDCAサイクル」という言葉にはしていませんが、自然な流れで学習に取り入れられています。
力を入れる部分は毎年変えていて、一昨年は振り返りの部分に、昨年は自分にふさわしい学びの形を選択する部分に、今年は目的意識を持つ部分に力を入れています。教員もPDCAサイクルを意識することで、本校がもともと目指していた「主体的に学ぶ姿」がより明確になってきました。
――今までの学びのスタイルが「PDCAサイクル」だったということですね。
橋本校長:そうです。振り返りを大切にしていたら、主体的に学ぶ姿が見られるようになってきました。子どもたちの学びたい、やってみたい、という思いをどのような形で提供していくのか、どのタイミングで振り返りの場面を設ければよいのか模索しながら進めています。そこで、目的意識を持つ方法の一つとして、キャリア教育を取り入れています。
――キャリア教育について教えてください。
橋本校長:キャリア教育では、人として生きていく喜びややりがいに目を向けられるよう、働く大人と出会う機会を多く設けています。地の利を生かし、さまざまな業種の方にご協力いただいていまして、例えばコメダ珈琲さんからはおもてなしの心に関するお話を、ブックオフさんからは本の価値やその価値を見出してくれる人に本を渡す仕組みをつくることについて、UNIQLOさん・GUさんからは「”届けよう服のチカラ”プロジェクト」として難民に服を届ける活動のお話を、有名なレストランのシェフや飲食業界の方からは地産地消、流通や原産地、フェアトレードなどについてお聞きしています。
話を聞くだけではなく、名古屋青年会議所さんから10年後の名古屋をテーマにした学びの機会をいただいたときは、子どもたちがグループで話し合い、理想の名古屋像をプレゼンする授業を行いました。
――子どもたちの学習意欲はいかがでしょうか。
橋本校長:学ぼうとする気持ちは強いと思いますし、私たちもワクワクするような学校にしようと知恵を出し合っています。加えて地域行事や地域探検にでかけると、地域のみなさんが学区の良さや誇りに感じるところを子どもたちに話してくださいますので、いろいろな視点を含めたキャリア教育ができるよう取り組んでいます。
教科担任制や日本語サポートなど、子どもに寄り添う東桜小学校
――1学年2クラス規模の良さなどを教えてください。
橋本校長:学年の2学級を赤組、白組としているのですが、赤組の担任が白組の社会科も教えて、逆に白組の担任が赤組の理科も教えるなど、教科担任制のような形も取り入れています。これが3学級になると教科担任業務の負担が大きくなってしまうので、教科担任制と学級担任制の良さを合わせたような形が取れる本校は、学びにも子どもにも寄り添うことができています。先生は同じ学年の子どもたちの顔がわかりますし、毎年、クラス替えもします。ほどよい規模の学校なのだと思います。
――近年の全校児童数はいかがでしょうか。
橋本校長:ここ10年で100人ほどが増加し、今年度は370名ほどです。高層マンションの建設や商業施設が住宅に変わってきていることが影響しているかもしれません。
――外国人のお子さんも通われていると思いますが、サポート体制があれば教えてください。
橋本校長:外国語を母語とする児童がクラスに数人いる状況です。名古屋市として中国語、フィリピン語、ボルトガル語など、各言語に対応するサポート体制をとっており、「日本語通級指導教室」で時間を設けて日本語教育を受けてもらうパターンと、母語学習協力員さんが授業に入って学習言語をサポートするパターンがあります。母語学習協力員さんは基本的に名古屋市内の学校を回られるのですが、本校は中国語に対応できる方が在籍されているので、ほぼ常駐という形でお子さんの学びのサポートのほか、ご家庭への連絡、意思疎通の場面でもサポートしていただいています。
誇りある地域とつながる東桜っ子
――隣接する「名古屋市立冨士中学校」との連携やつながりはいかがでしょうか。
橋本校長:ここ3年ほど、「名古屋市立冨士中学校」学区の「名古屋市立山吹小学校」「名古屋市立東白壁小学校」と本校で一体的な学びができるよう進めています。この活動は名古屋市全体で実施している「ナゴヤ学びのコンパス」に基づいていまして、「ゆるやかな協働性の中で自立して学び続ける子ども」「子どもは有能な学び手であると理解し、子どもの学びに伴走する教職員」を理念に、幼児期から青年期まで一貫して、自律して学び続ける子を育成することを目指しています。
この名古屋市共通の考えをもって、それぞれの学校にふさわしい学びの形を追求しています。具体的には、お互いの授業を見学に行き、見学後にそれぞれの学校の目指す子どもの姿やどのような思いで指導にあたっているかを伝え合い、意思の疎通や討議をしています。
――中学生と小学生の交流はありますか。
橋本校長:中学生が委員会活動で、保健衛生の啓発などをプレゼンしてくれています。また、運動会やもちつき大会など学区の行事に中学生が参加していますので、子どもたちは垣根なく交流している雰囲気があります。
――地域の方との交流もありますか。
橋本校長:地域の方は子どもたちが参加できる行事を開いてくれますし、夏休みにはラジオ体操のお手伝いと、その後に地域の歴史や成り立ちについて朝勉強会を開いてくれる「桜下村塾」の活動が脈々と続いています。地域のみなさんが地域に対する愛着と誇りを持ちながら、子どもたちに関わってくださっています。
――学校周辺には、学びにつながる施設や地域資源がたくさんありますね。
橋本校長:遠足で低学年は「Hisaya-odori Park(久屋大通公園)」、中学年は「名城公園」、高学年は「鶴舞公園」へ出かけます。ほかにも、「東海テレビ放送」や「NHK名古屋放送局」があることからメディア教育を、また、「中部電力 MIRAI TOWER」や「オアシス21」など、地域探検で調べたり学んだり、歴史の深さを知ることができる機会や資源がたくさんあります。
橋本校長:「名古屋市科学館」についても、他の学校はお弁当を持って1日がかりで学びに行きますが、本校は学校へ戻って給食を食べて午後からいつも通り授業を受けることができるほど近い場所にあるなど、交通の便が良い場所です。
――名古屋城が近いところも特徴ですね。
橋本校長:本校があるエリアは名古屋城の城下町の中核でした。武家の町の端にあたり、大須や栄といった町人のまちにも近く、飯田街道の起点でもあるため町人も住んでいました。「清須越」でまちが清須から名古屋に移ったときに檀家さんも引っ越してきたことから、寺社仏閣もたくさんあります。
――橋本先生から見た泉一丁目周辺エリアの印象を教えてください。
橋本校長:栄や大須が近いことから、以前は買い物に来る場所という印象がありました。最近は中日ビルの建て替えなどがあり、建物や商業施設が入れ替わりながら生活に密着した店舗や生鮮食品を扱うお店が増えているので、今の生活にマッチした、人が住むエリアに変わってきたのではないでしょうか。改めて伸び盛りの地域になっている、という印象です。子どもたちの様子や地域行事を見ていると、外から来た方も受け入れてくれる文化的土壌があると思います。ここで生まれ育った人だけではなく、新たな住民の方々と協働しながら地域活動されていることから、親和性が高い暮らしをされているのではないかと思います。

名古屋市立東桜小学校
橋本 新 校長先生
所在地:愛知県名古屋市東区東桜1-13-1
電話番号:052-961-7877
URL:https://www.nagoya-c.ed.jp/school/higashisakura-e/
※この情報は2025(令和7)年1月時点のものです。