地域の伝統文化を継承する社会福祉協力校

地域と関わりながら、社会の中でよりよく生きる「自律人」をめざし、豊かに学ぶ「豊橋市立豊城中学校」

伝統文化や豊かな自然など、恵まれた地域環境と地域の方々に囲まれた「豊橋市立豊城中学校」。生徒の主体性を尊重し、靴下や靴、かばん等の自由化、また中間テストを行わないなど、時代に合わせた校風の中、自ら考え、判断し、決断して行動ができる力を育んでいます。生徒がめざすのは「自律人」。保護者や多くの地域の方々に支えられながら、具体的にどのような学びや力を身につけているのか、「豊橋市立豊城中学校」について校長の河合成始先生にお聞きました。

河合校長先生
河合校長先生

生徒の卒業の先、社会での自律をめざして

――まずは、学校の沿革や特徴、現在の生徒数や学級数などについて教えてください。

河合校長 2023(令和5)年度に創立76周年を迎えました。学校設立からしばらくの間は新城や豊川など、市外から越境してきた生徒もいたことを伝え聞いています。現在は八町小学校と松葉小学校の卒業生が通っており、全校生徒数が331名、1年生から3年生までそれぞれ3クラスずつと特別支援学級が3クラスあります。本校は地域の方々から誇りに思っていただいている中学校で、伝統を脈々と受け継いでいます。

――教育目標を教えてください。

河合校長 「自律と協調の精神を養い、知・徳・体の調和のとれた生徒の育成」です。本校ではさらに、卒業後も生徒がその先を生きることを考え、その上の目標として「自律人として、社会の中でよりよく生きていく」を設定し、ここに向けての教育活動をすすめています。

――「自律人」に、どのような思いを込めていらっしゃいますか。

河合校長 「自律人」は造語です。自分でいろいろなことを決めることができ、いい意味でぶれず、自分の感情をコントロールできる人を「自律人」と称しています。そして、学校の中でしか通用しないルールを決めるのではなく、社会との繋がりを意識した生徒の育成をめざしています。本校は早々に靴下や靴を自由化していますが、生徒は学校にふさわしいものを選んで通学しています。

そうは言っても分かりづらいため、数期前の生徒会でこのようなことがありました。ある生徒が足首までしかないソックスを履いていたら、先生から「それはやめて」と言われたそうですが、その生徒にとってはいけないこととは思わず履いていたため、嫌な思いをしたと。その思いを後輩にさせたくないという発想で、学びの場にふさわしい姿をまとめた「豊城スタンダード」を考えたそうです。自由ではあっても学びの場である学校を重んじ、髪の毛はこれがいいですね、といった書面を作成して生徒が発信してくれたのです。それが後輩に受け渡されて、さらに進んだ豊城スタンダードを今の生徒が自ら作っています。自分たちで自分たちのことを良くしていこうとする姿に、私は大変、心強さを感じています。

教室の様子
教室の様子

――中間テストがないとお聞きしましたが、理由をお聞かせください。

河合校長 多くの中学校では中間テストと期末テストがあり、勉強はテスト週間だけになりがちです。それを崩していくために、数年前から本校では中間テストではなく、単元テストを行っています。教科書の単元が終わったら確認の意味を込めて単元テストを行います。生徒は短いスパンで勉強していますし、授業とその単元テストをリンクさせることによって授業へ向かう姿勢も良くなっているように感じます。もし、テストで思うような点が取れなかったとしても、勉強をやり直す範囲が狭く、振り返りやすいでしょう。自律を目標に掲げている以上、自律を促す環境づくりを私たちもしていかなければいけません。

――一人ひとりの先生の教育方針や伝え方も大切ですね。

河合校長 分かりやすい例で言うと、「廊下を走るな」という指導ではなく、「歩きましょう」という指導を促しています。何をすれば良いか伝えることで、するべきことが見えてくるからです。また、生徒同士の喧嘩に教師が間に入った場合、何があったのかをそれぞれの生徒から聞き、それを解決するためにどうしたら良いのかを聞きます。すぐに答えられれば良いのですが、答えられない場合は選択肢を用意して、決定は生徒が行うという状況をつくってもらっています。これを繰り返すことで、「考える脳」を育んでいます。

――先ほども「豊城スタンダード」を生んだお話がありましたが、生徒会活動は活発なのでしょうか。

河合校長 生徒会は行事担当ではなく、学校をより良くするための会だと伝えています。また、生徒には「失敗と書いて成長と読む」と伝えています。これは私の大好きな野村克也さんの言葉です。失敗を恐れず、まずはやってみることが大切。この言葉によって、生徒はどんどんプラスの発信をしています。

「子ども」の目線ではなく、社会に生きる「人」の目線で、自律人として生きるための考え方や行動を積み重ねることにより、2年生、3年生になるにつれて生徒の感覚が変化し、社会人として生きていく力を身につけているなという感触があります。

廊下
廊下

豊かな学びを得られる地域の教育力

――地域との連携や豊城中学校との関係性について教えてください。

河合校長 地域のみなさんから、「豊城中学校」は地域の中にある学校だという意識をもっていただいているのだと本当に感じています。愛情をいただいていると私は理解しているのですが、校外でマナーを守っていない生徒への叱咤激励のお電話をいただくこともあり、しっかり学校に目を向けてくださっているのだと感じています。

――学校の教育方針も理解してくださっているのでしょうか。

河合校長 年に3回開いている学校評議会では、八町校区と松葉校区の自治会長さん、民生委員さん、PTA役員さん、同窓会長さんにも参加していただき、本校の考えや日々の教育活動などの情報を発信し、ご意見をいただいています。地域の方との交流という点では、学校公開週間を設けており、年間にわたって数回開催し、トータル30日ほどはいつでも校内を見学していただけます。どなたでも参加できるので、危険だという意見もありますが、なかなか敷居が高いと思われている学校の日頃の様子を見ていただける機会だと思います。開かれた学校として、物理的にも、指導面や組織面などの情報もオープンにすることで、社会と繋がる学校になるはずです。そして、たくさんの学校応援団が増えるといいなと考えています。

――ユネスコスクールの活動についても教えてください。

河合校長 ユネスコスクールのために特別な活動をするわけではなく、本校では地域の環境をいかした活動を行っているので、普段の活動を報告しています。

ユネスコスクールの看板
ユネスコスクールの看板

――地域の環境をいかした活動とは、どのような活動でしょうか。

河合校長 一つは八町校区の飽海町には豊橋市指定無形民俗文化財「飽海人形浄瑠璃吉田文楽」が受け継がれていますし、また、同じ八町校区の安久美神戸神明社では、「豊橋鬼祭」という地域伝統の祭りが行われています。さらには、松葉校区に吉田神社があり、そこは手筒花火発祥の地と言われています。これらの伝統文化が全て校区内にあります。

1年生は人形浄瑠璃を地域の方から学びます。2年生は鬼祭について学び、ボランティアとして、祭りに使用するたんきり飴の袋詰めや紙垂(しで)作りをします。3年生は手筒花火と打ち上げ花火を併せて二日間で行われる豊橋祇園祭では、豊橋市は「530運動」の発祥の地でもあることから環境美化のためゴミ袋配布等のボランティアを務めます。これらをユネスコスクールの活動として報告しています。

在学3年間で、これほどまでの文化と歴史にふれられる経験は、ほかの学校ではないのではないかと思います。ちなみに、人形浄瑠璃に関しては部活動として取り組んでいます。きっと、卒業後に校区外へ出た時に自分の校区のすばらしさを実感できるのではないでしょうか。居ながらにして地域への誇りと自信を持つことができるので、大学等で地域の外へ出ていっても、この地へ戻ってくるのではないかと期待ができます。

多くの人が集まる豊橋祇園祭の花火
多くの人が集まる豊橋祇園祭の花火

――人形浄瑠璃部について教えてください。

河合校長 週に数回、地域の方が稽古をつけてくださり、三味線の先生もボランティアで教えてくださいます。文楽用の太竿の三味線を寄付していただくなど、地域からの関心も高い部活です。夏休みに「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」にて行われる「小中学生による芸能フェスティバル」の大舞台で演目を披露するほか、校内の文化祭や八町小学校での発表も行っています。

数年前から生徒のアイデアにより、映像で開演前に演目のあらすじを紹介したり、現代語訳した物語のシナリオを流したりしたことで、観賞してくださる方々から分かりやすくなったと好評を得ています。豊橋市としても伝統芸能を絶やしてはいけないと、人形浄瑠璃吉田文楽のサポートをしてくださっています。

――地域の方も参加する「豊城朝市」について教えてください。

河合校長 「豊城朝市」はPTA主催のバザーのような行事です。毎年、500~600人の地域の方にお越しいただき、みなさん楽しんでくださっています。2023(令和5)年度の体育館の工事中はPTAのアイデアでテントを張って運動場で行いました。その時は焼き芋やハンバーガー、イチゴ飴などのキッチンカーも出て、大盛況でした。

――PTA活動はどのように行われているのでしょうか。

河合校長 以前は、例えば体育大会時に門のそばで警備をしていて、運動場で活躍している生徒を見られないような活動をしていただいていました。現在のPTA活動は、私たち大人がどのように関わっていけば、生徒がのびのびと活動できるのかを考え方の根っこに置く取り組みをされています。

校庭の一角
校庭の一角

――そのほかの地域活動についても教えてください。

河合校長 資源回収は勤労体験学習として年に1回、生徒が地域へ出向き、地域の方々とふれ合いながら活動をしています。地域に出て活動していると、生徒はいつもとは違った表情を見せ、地域の一員としての逞しさを示してくれます。その一方で、参加を呼びかけているのが、それぞれの小学校区で行われている防災訓練です。中学生は率先して避難を呼びかけ、救助する側の立場になる、そうした意識をもってもらいたいと考えています。まさに社会とつながりながら、「自律人」として生きていって欲しいと思います。

見どころや楽しみも多い「豊橋市立豊城中学校」の周辺エリア

――河合校長ご自身は地域とどのような関わり方をされていますか。

河合校長 私は着任と同時に、とにかく地域を知ろうと思って八町校区、松葉校区を散歩がてらずっと歩いていました。そして、生徒と接する機会を大事にするために、生徒たちが登校してくる吉田城側の東門と国道1号沿いの正門に毎朝交互に立ち、朝の挨拶をしています。出張や緊急時以外の日であれば、着任後から今も続けています。地域の方々からの協力が得られているのも、「あの校長が熱心にやっているなら」と、この姿が届いているのかな、と感じています。

正門から見た校舎
正門から見た校舎

――学校周辺の魅力的な部分や場所があればお聞かせください。

河合校長 これまでお話させてもらったとおり、この校区は歴史と伝統に包まれ、地域に根ざした学校としての理解を示してくださっている魅力的なところです。いろいろなみどころスポットもあります。校舎の東隣には吉田城があります。吉田城がある豊橋公園は、4月に学級オリエンテーションで使わせていただき、ちょうどお花見もできます。本校の徒歩圏内には、2月に「豊橋鬼祭」が行われる「安久美神戸神明社」、手筒花火発祥の地「吉田神社」があり、本当に文化と歴史と伝統に浸ることのできるエリアだと思います。

また、豊橋市内を走る「市電(豊橋鉄道の路面電車)」では、おでんを食べられる冬のイベント電車「おでんしゃ」や夏のイベント電車「ビール電車」は予約がとれないほど、全国的にも有名です。「豊橋」駅を出たペデストリアンデッキから眺める市電が走るまち並みや冬のイルミネーションも賑やかで、ぜひ立ち寄っていただきたい場所の一つです。

――豊橋市内には彫刻も多く飾られていますよね。

河合校長 そうですね、学校の敷地内にも多数、展示されています。このように伝統の流れがある学校なので、地域の中学校としてやるべきことをしていかなければいけないと感じています。

愛知県豊橋市・「豊橋市立豊城中学校」
愛知県豊橋市・「豊橋市立豊城中学校」

豊橋市立豊城中学校

校長 河合成始先生
所在地:愛知県豊橋市今橋町2-1
電話番号:0532-54-1275
URL:https://www.toyohashi-c.ed.jp/houjou-j/
※この情報は2023(令和5)年12月時点のものです。